経営をしていると、人が採れない、育たない、辞めていく、売上が伸びない、資金繰り、原材料の高騰、そして自分がいないと会社が回らない多忙さと、悩みが次々に出てきます。「よその会社も同じなのか」「うちの悩みは、経営者としてよくあるものなのか」を知りたくなることもあると思います。
この記事では、複数の調査データをもとに、中小企業経営者が抱える悩みの全体像を整理します。あわせて、似た悩みでも原因が同じとは限らないこと、どの構造から来ているかを切り分ける視点を示します。数値は記事作成時点(2026年7月)のものです。調査は定期的に更新されるため、最新値は各調査元でご確認ください。
中小企業の経営課題で一番多いものは?
日本政策金融公庫の全国中小企業動向調査(2025年10-12月期実績)では、「売上・受注の停滞、減少」が29.3%で最多でした。ただし、別の調査では人材確保・強化が最上位に来るなど、質問の仕方や対象企業によって順位は変わります。「一番多い悩み」は、どの調査を見るかで答えが変わる、というのが実際のところです。
経営者が困っていることは?
調査を通して繰り返し上位に挙がるのは、人材の不足と、売上・受注の停滞です。日本政策金融公庫の調査では、経営上の問題点として「売上・受注の停滞、減少」が最も多く、次いで「求人難」が挙がっています。人手については、帝国データバンクの人手不足に関する調査(2026年4月)で、正社員が「不足」と答えた企業が50.6%にのぼり、情報サービスや建設など一部の業種では6割を超えています。
多くの経営者が困っているのは、「人が足りない・育たない・辞める」という人材の問題と、「売上や利益を確保しづらい」という収益の問題です。人材の課題は、人数を増やすことだけではありません。必要なスキルを持つ人を確保し、育て、定着させるところまで含みます。
中小企業経営者の悩みランキング(一つの調査で見る)
ランキングとして順位を示すには、同じ調査・同じ質問・同じ回答者で比べる必要があります。ここでは、日本政策金融公庫の調査から「経営上の問題点」を挙げます。
- 調査名:日本政策金融公庫総合研究所「全国中小企業動向調査(中小企業編)」
- 対象期間:2025年10-12月期実績(2025年12月中旬に実施)
- 対象・回答:13,003社を対象、有効回答4,605社(回答率35.4%)
- 回答方式:最も重要な問題点を一つ選ぶ形式(割合の合計は約100%)
- 公表:2026年1月29日
| 順位 | 経営上の問題点 | 割合 |
|---|---|---|
| 1 | 売上・受注の停滞、減少 | 29.3% |
| 2 | 求人難 | 22.4% |
| 3 | 原材料高 | 16.2% |
| 4 | 人件費等の増加 | 15.3% |
売上の悩みが最上位ですが、求人難と、原材料高・人件費というコストの問題が続きます。景気や物価の動きで、これらの割合は期ごとに変わります。
複数の調査に共通するテーマ
質問の形式が違う調査どうしは、割合を同じ表に並べて比べられません。順位をつけずに、複数の調査で共通して挙がるテーマを整理すると、次のようになります。
- 人材の確保・育成・定着
- 売上・販路の拡大
- コスト・価格転嫁
- 資金繰り・財務
- 業務の標準化・DX
- 事業承継
たとえば帝国データバンクの「企業の経営課題に関するアンケート(2026年)」では、全回答企業の90.2%が「人材強化(採用・定着・育成)」を、60.5%が「販路開拓」を経営課題として挙げています。企業規模別に見ると、中小企業の「人材強化」は94.0%でした。こちらは複数回答で、公庫の単一回答とは質問形式が異なるため、割合は別ものとして見る必要があります。それでも、人材が中小企業に共通する最大級のテーマであることは、複数の調査に共通しています。
似た悩みでも、原因は一つとは限らない
ここで注意したいのは、症状が似ていても、原因が同じとは限らないことです。社内の悩みにも、いくつかの異なる構造があります。
社長の多忙や、管理職が機能しないことには、重要な判断が社長一人に集中している構造が関係していることがあります。人が辞めていくことには、仕事・評価・責任が特定の人に偏っている構造が関係していることがあります。特定の人しか業務が分からない属人化には、判断基準を共有し更新する仕組みの不足が関係していることがあります。
見た目の症状が近くても、手を入れる場所は同じとは限りません。ここで大切なのは、悩みを一つの原因にまとめることではなく、それがどの構造から来ているのかを切り分けることです。なお、原材料高や求人市場の厳しさのように、外部環境に左右される悩みは、社内の構造とは分けて考える必要があります。
症状別の入口──あなたの悩みに近い記事へ
悩みの中身ごとに、掘り下げた記事を用意しています。今いちばん気になっているものから読んでみてください。
- 社員が自分で動かず、いちいち指示を仰いでくる → 「指示待ち社員が生まれる本当の原因」
- 自分がいないと会社が回らない、とにかく忙しい → 「社長が忙しすぎる本当の理由」
- 特定の人しか分からない業務があり、その人が休むと業務が止まる → 「マニュアルを作っても属人化が解消しない理由」
- 役職はつけたのに、管理職が育たない → 「なぜ管理職が育たないのか」
- ワンマン経営のままで大丈夫か不安がある → 「ワンマン経営のデメリットと限界」
- 採用しても人が定着せず、辞め続ける → 「人が辞め続ける会社の共通点」
自社の悩みは、どこから来ているか
その悩みが外部環境によるものか、社内の構造によるものかで、打ち手は変わります。原材料高や市場の変化は、価格転嫁や取引先の見直しといった対応が中心です。育成・多忙・権限移譲・定着のように社内で起きている悩みは、原因となる構造ごとに手を入れる場所が異なります。
次のような状態が重なっているなら、いくつかの悩みが判断の集中という構造から来ている可能性があります。
- 重要な判断が、ほぼすべて社長を通っている
- 社員や管理職が、確認してからでないと動かない
- 「うちの判断基準」を書いたものが、社内にない
- 自分が数日抜けると、現場が止まる
よくある質問(FAQ)
Q. 調査によって悩みの順位が違うのはなぜですか。 A. 調査の対象企業の規模や業種、実施時期、質問の形式(一つだけ選ぶか、複数選ぶか)によって、上位に来る課題は変わります。景気や物価の動きで「資金繰り」や「原材料高」が上下することもあります。順位そのものより、自社にとってどれが重いかを見るほうが実務的です。
Q. 外部環境の悩みは、結局どうしようもないのでは。 A. 外部要因を完全にコントロールはできませんが、価格転嫁や取引構造の見直しなど、打てる手はあります。同時に、社内の構造から来ている悩みを整理しておくと、外部環境が厳しいときほど、社内で使える余力が生まれます。
自社の悩みの構造を確かめる
中小企業経営者の悩みは、多くが共通しています。そのなかには、外部環境によるものと、社内のいくつかの構造から来ているものが混ざっています。切り分けができると、どこに手を入れるべきかが見えてきます。
まずは、自社の悩みがどの構造から来ているのかを、客観的に確かめてみてください。
参考データ(出典・2026年7月時点)
