有望な社員を課長に引き上げた。役職も権限も与えたつもりだった。それでも半年たってみると、現場の細かい判断は相変わらず社長のところに上がってくる。「役職はつけたのに、なぜ自分で決めてくれないんだ」──そう感じたことはないでしょうか。研修に行かせても、面談で発破をかけても、いま一つ管理職としての手応えが出てこない。
管理職が育たない理由はいくつもあります。優秀なプレイヤーを適性を確かめないまま昇格させていたり、管理職になっても現場作業が減らなかったり、役割や成果責任があいまいだったり、部下育成が評価につながらなかったり。なかでも、役職を与えたのに細かな判断が社長へ戻り続ける会社では、管理職に「決める経験」そのものが渡っていない可能性があります。役職という肩書きと、役割・責任・権限・評価がかみ合って、はじめて管理職は機能します。
なぜ管理職が育たないのか?
よくあるのは、最終判断を社長が握ったままにしているケースです。役職を与えても、最後は社長が決めるなら、管理職は判断を経験できません。
管理職になると、仕事の中身が変わります。自分の作業を終わらせることに加えて、チームの優先順位や人の配置を決め、その結果に責任を持つ仕事が増える。この役割の転換がうまくいかないまま肩書きだけを渡すと、管理職は決めようとした場面で社長に確認し、社長が答えを出す。これを繰り返すうちに、管理職は「自分で決めても、どうせ社長が決め直す」と学び、決めることから手を引いていきます。
役職を与えることと、役割を担ってもらうことは別物です。肩書きだけ渡して最終判断を回収し続けると、管理職はいつまでも「社長への伝達係」にとどまります。部下から見ても、決定権のない上司より、実際に決めている社長のほうが頼りになる。こうして、上げた役職が現場で機能しないまま形だけ残っていきます。
管理職の適性は、どう見極めればいいか?
向き不向きはあります。ただ、「決める経験をしていない人」と「決める素質がない人」は、外からは見分けがつきにくいものです。判断の場数を踏んでいない段階で「向いていない」と判定すると、育つ前に見切ってしまうことがあります。優秀なプレイヤーを適性確認なしで昇格させ、あとで「向いていなかった」と結論づけるのは、順番が逆になっていることも少なくありません。
適性を見るなら、役割・責任・権限をそろえたうえで、一定期間、実際に決めさせてみることです。そのとき見るのは、個々の判断が当たったかどうかだけでなく、チームの成果に向き合えているか、部下を動かして結果を出そうとしているか。プレイヤーとして優秀でも、チームで成果を出す役割にうまく切り替わらない人はいます。素質の話に落とし込むのは、役割を担える条件をひととおり整えたあとでも遅くありません。
管理職が機能するために揃える5つの設計
管理職は肩書きではなく、チームの成果を担う役割です。次の5つがかみ合っていないと、本人がどれだけ有能でも機能しにくくなります。
| 設計項目 | 確認すること |
|---|---|
| 役割 | 管理職に何を実現してほしいか |
| 責任 | どのチーム成果を負うのか |
| 権限 | 何を自分で決めてよいか |
| 上申条件 | 何を社長へ上げるのか |
| 評価 | 個人成果とチーム成果を、どう評価に反映するか |
出発点になるのは、役割と責任です。「この人に何を実現してほしいのか」「どのチーム成果を負ってもらうのか」がはっきりしていないと、管理職は何をどこまでやればいいのか分からず、結局は目の前の自分の作業に戻ってしまいます。役割と責任が決まって初めて、それに見合う権限と評価を設計できます。
とくに見落とされやすいのが、評価です。プレイヤー時代と同じ個人成果で評価されたまま、管理職の仕事も求められると、本人は自分の数字を優先します。部下の育成やチームの調整に時間を割くほど自分の評価が下がるなら、管理職としての仕事は後回しになる。評価が個人成果のままだと、役職は管理職でも中身はプレイヤーの状態が続きます。
権限と上申条件も、対で設計します。何を自分で決めてよく、何を社長へ上げるのか。この線が引かれていないと、管理職は念のため全部を確認し、判断は社長へ戻っていきます。社長から現場への権限委譲そのものの進め方は「社長が忙しすぎる本当の理由」で扱っているので、ここではその手前にある、管理職の役割設計に絞ります。
社長が管理職の判断に介入するときの原則
判断を任せると決めても、間違いを黙って見過ごすわけではありません。介入の仕方に原則を持つ、ということです。
まず、介入する条件を先に決めておきます。損失が一定額を超える、法令や安全に関わる、といった線をあらかじめ引き、それ以外は管理職の判断を尊重する。この線があると、口を出しすぎずに済みます。
次に、法令・安全上の問題など緊急時を除き、修正が必要なときも、部下の前で決定を直接ひっくり返さないことです。一度それをやると、部下は「結局、社長に聞けばいい」と考え、管理職を飛ばして社長へ直接向かうようになる。組織の判断経路が崩れます。修正はまず管理職本人と話し、管理職の口から現場へ伝えてもらう。
そして、振り返るのは、結果だけでなく判断の過程です。外れたときも、その時点で持っていた情報からの判断として妥当だったかを一緒に確認する。結果の良し悪しだけで叱ると、管理職は決めること自体を避けるようになります。
管理職が育たない会社の特徴は?
次のような状態が続いていないか、確認してみてください。
当てはまる項目が多いほど、管理職が育たない原因が本人ではなく、設計の側にある可能性が高くなります。
よくある質問(FAQ)
Q. 管理職研修を受けさせても変わらないのはなぜですか。 A. 研修で学んでも、職場で担う役割や決めてよい範囲が曖昧なままだと、実践する場がありません。研修の前後に、どのチーム成果を担い、何を自分で決めるのかを明確にしておくと、学んだことが使われるようになります。
Q. 任せて失敗されると心配です。特に大きな案件は。 A. 大きな案件を、いきなり丸ごと委ねる必要はありません。管理職に判断案とその理由を出してもらい、社長と共同で決める段階を挟む。こうすれば、経験を積ませながらリスクも管理できます。小さな判断は任せ、大きな判断は共同で、と分けて設計するのが現実的です。
Q. 評価を変えるとなると、既存の制度に手を入れることになります。 A. 全社の制度をいきなり作り替える必要はありません。まず管理職一人について、「チーム成果をどう見るか」を評価に一項目足すところから始められます。個人の数字だけでなく、チームで出した結果を見る。それだけでも、管理職の時間の使い方は変わっていきます。
5つの設計のうち、どれが欠けているか
管理職が育たないのは、採用や研修の失敗とは限りません。役割・責任・権限・上申条件・評価のどれかが欠けたまま肩書きだけが先にあると、誰を据えても同じ場所で止まりやすくなります。
自社では、この5つのうちどれが抜けているのか。まずそこを確かめてみてください。
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