求人を出し、時間をかけて採用し、教育する。ようやく戦力になってきたと思った頃に、また退職の申し出が来る。採用コストも教育の手間もかさむ一方で、「なぜうちは人が定着しないのか」という問いだけが残っていく。待遇も相場並みにはしているし、ひどい職場のつもりもない。それでも人が抜けていく──そんな状況に心当たりがあるかもしれません。

退職の理由は人によって異なります。上司との関係、労働時間、キャリアの見通し、家庭の事情など、原因はさまざまです。この記事で扱うのは、そのうちの一つ──待遇が極端に悪いわけではないのに、責任感があり、自分から動く社員から続けて辞めていくケースです。辞めていく社員を責める話ではなく、経営者が仕事・評価・責任の配分を見直すための記事です。頑張るほど負担が増える職場では、新しい人を採っても同じ退職が繰り返されやすくなります。

人が次々辞める職場の特徴は?

こうした職場では、頑張った人ほど負担と責任が偏って集まり、報われにくくなっています。退職者を並べてみると、責任感があり、仕事を任されやすい人に偏っている会社があります。よく働く人、自分で考えて動く人、改善を提案する人に負担が寄り、報われないまま消耗して抜けていく。

一つひとつの退職には、それぞれの事情があります。ただ、続けて辞める会社を見ていくと、個別の理由の奥に、いくつかの共通した仕組みが見えてくることがあります。

優秀な人・動ける人から辞めるのはなぜか?

動ける人ほど、報われない構造に早く気づきます。負担が増え続けても評価や報酬に反映されないなら、環境を変えるという選択が合理的になります。

そして、その人が抜けると、抱えていた仕事が残った社員へそのまま再配分されます。もともと余裕のなかった人の負担がさらに増え、次の退職を招く。採用しても育つ前にまた欠員が出て、現場は常に人手不足のまま回り続ける。この連鎖が「辞め続ける」状態の中身であることが少なくありません。個別の退職を一件ずつ見るより、この流れ全体を止められるかどうかが分かれ目になります。

頑張った人が損をする4つの構造

こうした会社で起きていることは、大きく4つに整理できます。

評価が不透明で、何をすれば報われるのかが分からない。成果を出しても評価につながる実感がなく、社長に近い人や声の大きい人が得をしているように見える。何を頑張れば報われるのかが見えないと、真面目に成果を積む意味が薄れていきます。

仕事ができる人に、業務が偏って集中する。急ぎの案件やトラブル対応が、いつも同じ一人か二人に回っていく。頑張るほど仕事が増えるのに、評価や報酬は変わらない。すると、できる人から順に「ここで消耗し続ける理由はない」と考え始めます。

提案した人が、そのまま担当にされる。「こうしたらどうか」と口にすると、「じゃあ君がやって」と任される。善意の提案が負担増に直結する。これが何度か続くと、社員は気づいたことがあっても口をつぐむようになります。

判断して動いた人だけが、責任を負う。自分で決めて失敗すると一人で背負わされ、指示どおりに動いていれば責められにくい。決めなければ責任も問われないなら、自分から動くことが割に合わなくなります。

この4つは、動いた人・引き受けた人ほど負担と責任が偏る、という共通点を持っています。

4つの構造を、どう設計し直すか

問題を挙げるだけでは変わりません。それぞれに、見直す設計が対応します。

起きている構造見直す設計
評価が不透明評価項目と、その判断理由を社員に共有する
できる人へ仕事が集中業務量の上限・代替担当・再配分のルールを決める
提案者がそのまま担当になる提案者に自動的に任せず、実行責任者・必要工数・優先順位を別途決める
判断した人だけが責任を負う判断してよい範囲と、上司が引き受ける責任を明確にする

評価の設計は「評価制度がない中小企業で起きること」で、提案や判断に対する上司の反応の設計は「指示待ち社員が生まれる本当の原因」で、それぞれ詳しく扱っています。ここで押さえておきたいのは、これらが「個人のやる気」ではなく「配分と責任のルール」の問題だという点です。

採用や待遇を見直しても定着しないのはなぜか

離職が続くと、多くの会社はまず採用と待遇に手を入れます。求人の出し方を変え、給与を上げ、福利厚生を足す。これらは無駄ではありませんが、上の配分の構造が残ったままだと、新しく入った人も、しばらくすると同じ理由で抜けていきます。

構造が残ったまま採用だけを回し続けると、人が抜けるたびに残った社員の負担が増え、その負担増がまた次の離職を呼びます。採用と教育のコストは膨らみ、現場は常に人手が足りない。採用を頑張るほど疲れていく感覚があるなら、見直すべきは仕事・評価・責任の設計のほうです。

直近5人の退職者から、構造を読む

退職面談だけで、退職に至った背景の全体を把握するのは難しいことがあります。円満に辞めたい人ほど、当たり障りのない理由を口にするからです。代わりに、直近で辞めた5人ほどを、次の項目で並べてみてください。

  • 所属部署と、直属の上司
  • 勤続年数
  • 退職前に抱えていた業務量
  • トラブル対応や例外業務を担っていた件数
  • 改善提案のあとに増えた仕事
  • 評価や昇給とのつり合い
  • 辞めたあと、その仕事が誰に移ったか

特定の部署や上司、あるいは仕事を任されやすいタイプに偏りが見えたら、個人の資質ではなく、組織運営の側に原因がある可能性があります。退職者の言葉だけでなく、離職のパターンから当たりをつけるほうが、打ち手につながります。

セルフチェック:うちは頑張る人が損をしていないか

当てはまる項目が多いほど、離職の原因が個人ではなく、仕事・評価・責任の設計の側にある可能性が高くなります。

よくある質問(FAQ)

Q. 給与を上げれば、定着は改善しませんか。 A. 給与の見直しは重要です。ただ、待遇を改善しても、責任感がありよく動く人が同じように辞め続けているなら、業務配分や評価の構造も合わせて確認する必要があります。消耗の理由が待遇以外にあるサインだからです。

Q. 辞める人にだけ問題がある、とは考えられませんか。 A. 個々のケースではあり得ます。ただ、辞めていくのが、仕事を任されやすい人や責任感のある人に偏っているなら、個人より配分と責任の仕組みを疑ったほうが説明がつきます。誰が辞めているかの傾向は、構造を読む手がかりになります。

定着しない構造を、どこから見直すか

人が辞め続けるのは、採用の失敗や社員の質だけの問題とは限りません。動いた人・引き受けた人に負担と責任が偏る配分が残っていると、誰を採っても同じところで抜けていきやすくなります。

まずは、自社のどこで「頑張る人が損をする」形になっているのかを、客観的に見てみてください。どの構造が強く出ているかが分かれば、手をつける順番も決めやすくなります。

👉 定着しない構造を診断する


※関連記事:若手が辞める会社の特徴評価制度がない中小企業で起きること