聞き分けがよく、わがままも言わない。まわりから「育てやすいね」と言われる。それでも、ふとした瞬間に、「この子は本当は、無理をしていないだろうか」と気になった——。そんな思いから、「いい子ちゃん症候群」という言葉にたどり着いたのかもしれません。

先にお伝えすると、「いい子ちゃん症候群」は、病気の名前ではありません。この記事では、その言葉が指す状態を整理したうえで、手のかからない子ほど、どこを気にかけたいのかを、一緒に見ていきます。

「いい子ちゃん症候群」とは

「いい子ちゃん症候群(いい子症候群)」は、正式な医学的診断名ではなく、ある状態を表す、日常的な言い方です。その状態とは、自分の本当の気持ちや欲求を抑えて、まわりの大人が望む「いい子」であり続けようとする姿を指します。

心理学では、これに近い状態を「過剰適応」という言葉で説明することがあります。周囲にはうまく適応しているように見えても、内側では、自分の気持ちを抑えたり、自信を失ったりして、負担を抱えている状態です。

こんな姿として現れることがあります

たとえば、次のような姿として語られます。

  • わがままや不満を、ほとんど言わない
  • 大人の顔色をうかがい、機嫌を気にする
  • 「どうしたい?」と聞かれても、自分の意見が出てこない
  • 断るのが苦手で、頼まれると無理をしてでも引き受ける
  • 失敗や、人に嫌われることを、強く怖がる

ここで、大切なことを一つ。これらに当てはまるからといって、「問題のある子」というわけではありません。聞き分けがよいことも、人に気をつかえることも、その子の大事な力です。気にかけたいのは、その「いい子」でいることが、本人の我慢の上に成り立っていないか、という点です。

「いい子」は、性格だけでも、家庭だけでも決まりません

子どもが「いい子」でいようとする姿は、生まれ持った性格だけで決まるものではありません。本人の気質と、家庭・学校・友人関係など、まわりとの関わりが重なる中で、その子なりの「適応の形」として現れることがあります。中学生とその母親を対象にした研究でも、過剰適応には、本人の気質と、まわりの環境の両方が関わることが示されています。

家庭だけでなく、学校や習い事、友人関係の中でも、子どもは周囲の期待を敏感に受け取ります。「迷惑をかけないほうがいい」「期待に応えたほうが安心できる」と感じる経験が重なると、本音より、まわりに合わせることを優先するようになる場合があります。

忙しい毎日の中で、聞き分けのよい子に助けられ、「しっかりしているね」と褒めてきたこともあるでしょう。それは、愛情が足りなかった証拠ではありません。今から見たいのは過去の正解・不正解ではなく、「嫌だと言っても大丈夫」「失敗しても助けを求めていい」と感じられる余白があるかどうかです。

気にかけたいのは、我慢が積み重なっていないか

「いい子」でいること自体が、悪いわけではありません。ただ、自分の気持ちを抑え込むことが続くと、その我慢は、少しずつ積み重なっていきます。

外からは問題なく過ごしているように見えても、内側ではストレスが積み重なっていることがあります。もちろん、「いい子」だった子が、必ず苦しくなるわけではありません。将来を心配しすぎるより、今、その子が本音や弱音を出せる相手や場所を持てているかを、気にかけておきたいのです。

家庭でできること

特別なことは必要ありません。土台になるのは、「良い・悪い」で評価するより、感情そのものを受け止めることです。

「えらいね」「いい子だね」と、できたことを褒めるだけでなく、「今日はどうだった?」と、うまくいかなかったことや、いやだった気持ちも聞いてみる。わがままや弱音を出したときに、「そう思ったんだね」と、まず受け止める。子どもが「こんな気持ちを出しても、嫌われない」と感じられると、少しずつ、本音を出しやすくなることがあります。毎回うまく受け止められなくても大丈夫です。「いい子でなくても、あなたは大切」ということが、日々の関わりの中で少しずつ伝わっていけば、それで十分です。

そのうえで、もし、眠れない・食べられない・学校に行けない、強い不安が続くなど、生活に影響が出ているようなら、家庭だけで抱えないでください。学校のスクールカウンセラーや、小児科・児童精神科などに相談して大丈夫です。

よくある質問(FAQ)

「いい子ちゃん症候群」は、病気なのですか。

いいえ。正式な医学的診断名ではなく、自分の気持ちを抑えて「いい子」でいようとする状態を指す、日常的な言葉です。当てはまる姿があっても、それは「病気」や「異常」ということではありません。気にかけたいのは、その子が我慢をため込みすぎていないか、という点です。

手がかからないのは、良いことではないのですか。

聞き分けのよさや、人への気づかいは、その子の大切な力です。それ自体は、悪いことではありません。ただ、「手がかからない」の裏に、「本音を我慢している」が隠れていることもあります。良い悪いで決めるより、その子が安心して弱音も出せているかを見てあげてください。

どう関わればいいですか。

「いい子だね」と結果を褒めることに加えて、うまくいかなかった気持ちや、いやだった気持ちも受け止めてみてください。わがままや弱音を出したときに、頭ごなしに止めず、まず「そう感じたんだね」と返す。そうした積み重ねが、「本音を出しても大丈夫」という安心につながります。

読み終えたあなたへ

「うちの子は、いい子すぎるかもしれない」と気にかけたあなたは、その子の、見えにくい我慢に、目を向けようとしているのだと思います。それは、とても大切なまなざしです。子どもが「いい子」でいることを、やめさせる必要はありません。ただ、「いい子でいなくても、あなたは大丈夫」と伝わる余白を、少しずつ増やしていく。その中で、その子は、本当の自分の気持ちを、少しずつ安心して出せるようになるかもしれません。

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※参考:ベネッセ教育情報「いい子症候群とは?」石津憲一郎・安保英勇「中学生の過剰適応と学校適応の包括的なプロセスに関する研究——個人内要因としての気質と環境要因としての養育態度の影響の観点から」(教育心理学研究, 2009)

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