人手が足りないから、と社員を増やした。たしかに現場は回るようになった。それなのに、社長である自分の忙しさは、以前とほとんど変わらない。むしろ、見る人数が増えたぶん、確認や相談が増えて、忙しくなった気さえする──そんな感覚に、心当たりがあるかもしれません。

社長が忙しくなる根っこの構造は「社長が忙しすぎる本当の理由」で扱いました。この記事では、その一歩先、「人を増やすとき、仕事と判断をどう分担すれば社長の忙しさが減るのか」を考えます。増員後に社長の負担を減らせるかは、増やした後ではなく、増やす前の設計に大きく左右されます。

増員直後の忙しさと、いつまでも続く忙しさは違う

まず、分けて考えたいことがあります。社員を増やした直後に社長が忙しくなるのは、多くの場合ふつうのことです。採用、教育、引き継ぎには手間がかかり、しばらくは社長の負担が増えます。採用・教育・引き継ぎに伴う負担であれば、社員が仕事に慣れるにつれて落ち着いていきます。

問題は、社員が仕事を覚えた後も、社長への確認が減らない場合です。一定期間が過ぎても、「これはどうしましょう」という相談が社長に集まり続ける。これは慣れの問題ではなく、仕事の渡し方、つまり構造の問題です。一時的な忙しさなら、待てば減ります。構造的な忙しさは、設計を変えないかぎり、いつまでも続きます。

なぜ増員するほど、確認が増えるのか

社員を増やしたのに確認が減らない会社では、増員が「確認の発生源」を増やす方向に働いています。

人が増えると、現場でこなす作業は増えます。同時に、その作業を「どう進めるか」「これでいいか」を決める場面も増えます。このとき、決める権限が社長に集まったままだと、増えた人の数だけ、判断を仰ぐ声が社長に向かいます。作業は分散したのに、決めることは社長一人に残っている。だから、人を増やすほど、社長への確認や相談が積み上がっていきます。

ここで増えているのは、多くの場合、指示されたことを実行する人です。自分の裁量で決めて前に進める役割まで一緒に増えているとは限りません。手が増えても、決める場所が社長一点のままなら、忙しさは減らない。これが、増員しても社長の忙しさが減らない会社の中身です。

社長に集まる仕事を、4つに仕分ける

忙しさを減らす方法は、「決められる社員を増やす」ことだけではありません。その前に、いま社長に集まっている案件を仕分けると、移せる先が見えてきます。社長に上がってくる案件は、おおむね次の4種類に分けられます。

社長に上がってくる案件移す先
毎回同じ内容の確認ルール・マニュアルにする
現場で完結できる判断判断基準と権限を現場に渡す
部門をまたぐ判断責任者を決め、調整・決定権を渡す
経営方針・大型投資・幹部人事社長に残す

「毎回同じ確認」は、その都度答えるのではなく、ルールにすれば社長を通さずに済みます。「現場で完結できる判断」は、判断の基準と、決めてよい範囲を渡せば、現場で完結します。「部門をまたぐ判断」は、責任者を決め、調整と決定の権限まで渡して引き受けてもらう。そして、経営方針や大型投資、幹部人事のような、会社の根幹に関わる判断だけを、社長に残す。忙しさを減らすとは、社長に来るものすべてを抱え込むのをやめ、この4つのどこに置くかを決めることです。

増員する前に決めておく4つのこと

増員が確認を増やすか、忙しさを減らすかは、増やす前の準備で分かれます。人を入れる前に、次の4つを決めておきます。

  1. いま詰まっているのは、作業量なのか、判断なのか
  2. 新しい社員に、どの作業を渡すのか
  3. その社員が、どこまで自分で決めてよいのか
  4. どんな場合に、誰へ相談するのか

とくに1が出発点です。詰まりが作業量なら、増員は効きます。詰まりが判断の集中なら、人を足すだけでは解けず、2〜4の設計が要ります。ここを決めずに人だけ増やすと、増員は「確認に来る人」を増やすことになりかねません。任せ方の具体は「部下に仕事を任せられない社長へ」で扱っています。

任せた判断を、どう扱うか

現場に判断を渡すとき、育成の面で気をつけたいことがあります。任せた範囲の判断を、社長の好みだけで覆さないことです。任せたはずの判断を、社長の好き嫌いで毎回直していると、社員は「どうせ社長が決める」と学び、また確認に戻ります。

もちろん、重大なリスクがある判断は、修正が必要です。大切なのは、覆すか覆さないかではなく、覆すときの伝え方です。結果だけを直すのではなく、どの判断基準が違っていたのかを共有する。そうすると、社員は次に同じ場面で自分で判断できるようになり、確認の回数が減っていきます。

セルフチェック:あなたの会社は確認が減らない構造か

当てはまる項目があるなら、一時的な忙しさではなく、確認が減らない構造が残っている可能性があります。

よくある質問(FAQ)

人を増やす前に、まず何をすべきですか?

いま詰まっているのが、作業量なのか、判断の集中なのかを見分けることです。作業量の詰まりなら、増員は効きます。判断が社長に集まっているのが原因なら、人を足す前に、その判断をどこへ移すか(ルール化・現場へ・管理職へ・社長に残す)を決める必要があります。ここを飛ばすと、増員が確認を増やすだけになりがちです。

現場に判断を渡すのが不安です。失敗が怖いです。

いきなり大きな判断を渡す必要はありません。損失を限定できる、小さな判断から、判断の基準と、決めてよい線を示して任せる。失敗しても、結果だけを直すのではなく、どの基準がずれていたかを一緒に確認する。この積み重ねで、現場で決められる範囲が少しずつ広がり、社長への確認は減っていきます。

社長への集中度を確かめる

社員を増やしても社長が忙しいのは、増やし方が足りないからとは限りません。社員が仕事を覚えた後も確認が減らないなら、決めることが社長一点に集まる構造が残っているサインです。案件を4つに仕分け、どこへ移すかを決めることが、忙しさを減らす出発点になります。

まずは、いまどれだけの判断や確認が社長一人に集中しているのかを、客観的に確かめてみてください。集中の中身が見えれば、どれをどこへ移せるかも考えやすくなります。

👉 社長への集中度を診断する


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