そろそろ引退や承継を考える歳になった。会社を続けていくために、誰かに引き継ぎたい。ところが、任せられる相手が見当たらない。子どもは継ぐ気がなく、社内を見渡しても「この人なら」と思える人がいない。「うちには後継者がいない」──そう感じている方は少なくないと思います。

後継者がいないと聞くと、多くの人は「候補となる人材がいないこと」を思い浮かべます。ただ、見落とされやすいのは、候補がいないことに加えて、判断を任せて育てる訓練を先送りしてきたという構造です。判断が社長に集中したまま何十年も来た会社では、いざ継がせようとしても、経営判断を経験した人が社内に育っていません。この記事では、後継者がいない会社の共通点を、人材の有無だけでなく、育つ構造という角度から見ていきます。

後継者がいない会社の特徴は?

共通して見られるのは、候補がいないというより、判断を任せて育てる機会がないまま来た会社です。経営に関わる判断が社長一人に集中し、幹部や親族が実務の担当にとどまっていると、経営を担える人が育ちません。

会社には、番頭格の社員や、実務に長けた幹部がいることも多いはずです。それでも「後継者がいない」と感じるのは、その人たちが経営の判断を任された経験を持たないからです。言われた仕事はできても、会社の方向を決めたり、重い判断を下したりする機会がなければ、経営者としての力はつきません。実務では頼りになるのに、経営を任せるとなると不安が残る。この差の多くは、能力そのものより、経営判断を経験してきたかどうかから来ています。候補がいないのではなく、候補が経営判断を経験する場がなかった、というのが実際のところであることがあります。

「後継者がいない」は、採用だけの問題ではない

後継者不在を、人材確保の問題として考えると、対処は「外から連れてくる」か「血縁を探す」に向かいます。もちろん、それが有効な場面もあります。ただ、その前に見ておきたいのは、社内で判断を渡してこなかった、という点です。

判断を任された経験のない人に、ある日いきなり会社を継がせても、うまくいきにくいものです。逆に、番頭格の幹部に少しずつ経営判断を任せてきた会社では、承継の候補が自然と育っています。後継者がいるかどうかは、優れた人材を採れたかどうかより、判断を渡す訓練を積んできたかどうかに左右される面があります。人がいないと結論づける前に、育てる機会があったかを振り返る価値があります。

なぜ後継者が育たないのか

後継者が育たない背景には、判断を渡す訓練の先送りがあります。「まだ早い」「自分でやったほうが確実だ」と、社長が重要な判断を握り続ける。その気持ちは自然ですが、それが続くほど、候補者は経営判断を経験できないまま年を重ねます。

判断は、任されて、実際に決めて、その結果を引き受ける中で身についていきます。社長がすべてを決めているうちは、候補者は補佐役の域を出ません。そして「まだ任せられない」と感じ、さらに判断を渡さない。この先送りが積み重なった結果が、「気づけば継げる人がいない」という状態です。

先送りには、もう一つの側面があります。長く経営を担ってきた社長ほど、自分の判断がいちばん確実だという感覚があり、任せて失敗されるくらいなら自分で決めたほうがいい、と考えがちです。その一つひとつは正しくても、積み重なると、候補者から経験の機会を奪い続けることになります。経営判断を任される機会が育成にどうつながるかは、管理職の育成とも共通していて、「なぜ管理職が育たないのか」でも扱っています。

後継者が育つ構造をどうつくるか

後継者を育てるうえで、まず必要なのは、判断を段階的に渡していくことです。いきなり全権を渡すのではなく、一定の領域から経営判断を任せ、決めた結果を一緒に振り返る。これを数年かけて広げていきます。

あわせて、社長の頭の中にある判断基準を、言葉にして渡します。「うちはこういうときはこう決める」という基準が共有されていないと、承継後に候補者が判断の拠りどころを失います。承継とは、株や役職だけでなく、この判断の基準を引き継ぐことでもあります。株式の移転や税務・法務の手続きにも時間がかかるため、専門家と早めに準備します。それと並行して、判断基準や企業理念、取引先との関係など、書類だけでは渡せないものも引き継いでいく。経営(判断)の承継と、所有(株式)の承継を、並行して進めることが大切です。

さらに、承継が通常の管理職育成と違うのは、周囲に「後継者」として認識してもらう必要がある点です。判断を任せるだけでなく、幹部や社員にも「この領域は候補者が決める」と伝えます。周囲が候補者を通さず、何でも現社長に確認する状態では、権限を渡しても経営者としての経験は積めません。取引先や金融機関にも、段階的に後継者を紹介していく。こうして初めて、候補者は名実ともに後継者になっていきます。

そして、承継には時間がかかることを前提に、早めに動き出すことです。判断を渡して育てるにも、株式や税務の対策にも、年単位の期間が要ります。引退の直前に慌てて始めるより、余裕をもって取りかかるほうが、無理なく引き継げます。承継の準備を何年前から始めるかは「事業承継の準備は何年前から」で扱っています。

継ぐ側にも、悩みがある

承継は、譲る側だけの問題ではありません。継ぐ側にも、先代と比較される、幹部が動いてくれない、といった悩みがあります。育てる構造を考えるときは、継ぐ人がどんな困難に直面するかも知っておくと、渡し方が変わってきます。二代目の側の悩みは「二代目社長の悩み」で扱っています。

セルフチェック:後継者が育つ構造があるか

当てはまる項目が多いほど、人材の有無に加えて、後継者が育つ構造が不足している可能性があります。

よくある質問(FAQ)

社内にも親族にも、継げそうな人が本当にいない場合は?

その場合は、外部から経営人材を迎える方法や、M&Aで第三者に引き継ぐ方法があります。ただ、どの道を選ぶにしても、判断が社長の頭の中だけにある状態のままでは、引き継ぎは難しくなります。判断の基準を言葉にし、社長がいなくても回る形に近づけておくことは、どの承継先を選んでも、会社の価値を保つ助けになります。

後継者育成には、何年かかりますか?

育成を含む事業承継の準備には、一般に5〜10年程度かかるとされています。判断を任せて経験を積んでもらうにも、株式や税務の対策にも、年単位の時間が要るためです。逆算すると、引退を意識し始めた時点で準備に入るくらいでちょうどよい、という見方もできます。

今から育てて、間に合いますか?

今からでも準備は始められます。まず一つ、経営に関わる判断を候補者に任せてみるところからでも、育成は動き出します。ただし、引退までに残された期間によっては、社内での育成だけでなく、外部からの招聘や第三者への承継(M&A)も、並行して検討する必要があります。今の状態と残り時間を確かめたうえで、現実的な道を選ぶことが大切です。

承継の準備度を確かめる

後継者がいないのは、候補となる人材に恵まれなかったからだけとは限りません。判断を任せて育てる訓練を先送りしてきた結果、継げる人が育っていない、というケースが少なくありません。

まずは、自社に後継者が育つ構造があるか、承継の準備がどこまで進んでいるかを、客観的に確かめてみてください。育つ構造が足りていないと分かれば、いま何を渡し始めるべきかが見えてきます。

👉 承継の準備度を診断する


※関連記事:二代目社長の悩み事業承継の準備は何年前から